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ふたえに始まりふたえに終わる

「山手線大塚駅近くまでお願いします。」
「はい、わかりました。で、どう行きましょうかね。」
先日、ちょっとした用事の帰りだったがとても疲れてしまってタクシーをひろったのだった。東京に住んで長いが、私は方向音痴のうえ、とんと道が分からない人間である。
「ああ、この時間空いている所をうまく回って下さい。おまかせします。」
「わっかりました。・・・じゃあ・・・」
ドアを閉めると同時に走り出す。右、左、細い道、なんのよどみも無くすいすい車は進む。外苑東通り、ここは知っているぞと思うまもなく左折、いつのまにか評判の遊園地のジェットコースターが見えてくるとまもなく春日通りだ。プロだから、とは思うが、やはり才能というか、体が覚えこんでいるのだろう、すごい!と思わざるをえない。
いつの頃だっただろうか、都内のある所へ自分の車で行こうと思いカーナビだけでは安心できず、地図を徹底的に調べ、頭に入れたつもりだった。あそこを右、目印は・・、次に・・の目印を左、一方通行の細い道らしいが注意をすれば行けるはずだった。ところが、途中で全然分からなくなった。地図のとおりに行くと違うところに出てしまうのだ。いや、地図のとおりの場所が無い、そんな感じである。
「失敗した!タクシーで行けば良かった!」
結局、目的地に到着するのにすごく遅れてしまった経験がある。


外科医の行なう手術にも同じようなことがある。
解剖図や手術書を見ると「外科手術」は簡単そうに感じるのだ。ここを切って、ああして、こうして、・・・ちょちょんがちょん。なんだ、簡単じゃない!
手術の助手をする場合このように予習をしてから、プロの外科職人の仕事をつぶさに観察するのだ。ふんふん、なるほどなるほど、教科書で調べたとおりだ。なんか、俺にもできそう・・。しかし、実際は思ったように簡単にはいかない。


形成外科をある程度習熟した形成外科専門医が始めて美容外科に出会うのはたいていは「ふたえまぶたの手術」である。
実は大学病院等形成外科専門施設では、形成外科専門医が「美容外科」に出会いこれを研修するのは最後の段階なのである。そこで形成外科専門医がはじめて美容外科として着手するのが「ふたえまぶたの手術」なのである。すでにそうとう経験を積んできた形成外科専門医にとって「ふたえまぶたの手術」は実に簡単に見える。ひょっとすると形成外科専門医として上を狙っている者にとって、「ふたえまぶたの手術」は物足りなく感じるかも知れない。そろそろ面倒がいやになってきた形成外科専門医にとって、「ふたえまぶたの手術」は美容外科医として独立したくなるきっかけになるかも知れない。いずれ「ふたえまぶたの手術」は美容外科への入り口になるのである。

施術前 施術後
施術前施術後

上眼瞼(上まぶた)の解剖学的知識は形成外科専門医試験ではもはや常識の部類に属している。であるから、形成外科専門医にとって「ふたえまぶたの手術」は机上理論やイラスト的には完全に理解し頭に入っているはずである。ところが、若き、形成外科専門医がはじめて「ふたえまぶたの手術」をすると、たいていの者は途中で迷いが生じてくる。
理由の一つは生きた実際の人のまぶたは手術書のイラストのように簡単に筋肉などが判別できないからであろう。最初は挙筋腱膜とミューラー筋すら区別できない。
もう一つの理由は、手術目的が単に症状の改善ではなく「美の追求」というかなり微妙な線を完成させなくてはならないというストレスであろう。

縫合した状態
縫合した状態

例えば、切り裂いてしまった皮膚をきれいに縫うという事なら形成外科的縫合技術のみが問われる事になる。
しかし、ふたえまぶたの美しさ、と言われると、単純に縫合技術がうんぬん以上の何かがある。患者さんの希望と要求をできるかぎり現実のものにするという美的センス、また、それを表現する技術である。ふたえまぶたのデザインの場合、ふたえの巾以外にも、ふたえまぶたの弧の方向、ふたえまぶたのくっきり度、ふたえまぶたの厚さ感、上まぶたの挙がり具合、等々、ポイントはいくつも存在するのである。それぞれ、どこをどうすればこの微妙な表情を表現できるのか?残念ながら、教科書をいくら読んでも、どこにも答えは無い。
実は、幾度となく繰り返し経験したことの積み重ねが微細な表現を可能にしてくれるはずなのだ。もちろん基本的な知識の習得は当たり前である。その解剖学的、あるいは生理学的知識の上に経験を生かしていく。一例一例確認をしながら、長い経験を積み重ねていくのだ。だから、経験の少ない若い形成外科医とって、たかだか「ふたえまぶたの手術」で迷いを感じるのである。
長年東京の街を走り続けているタクシーの運転手さんが、いかなる場所からでもお客さんの命じる、いかなる所へもすいすい行けるのは、単に東京都の道路図を暗記しているだけではないのに違いない。毎日の経験と努力がなせる技なのであろう。


よく抜糸を終わると「もう、来なくてけっこうです」等という美容外科医がいる。とんでもない話しである。自分の手がけた手術は抜糸から術後の経過まで十分観察をうべきである。できたら6ヶ月後の状態までは観察するべきであろう。
自分の思ったとおりにうまくいっているか?
患者さんは満足しているか?
もし、うまくいっていないとすれば何に問題があったのか?
カルテの手術記録を紐解いて反省する。この積み重ねが無ければいくら手術を経験しても発展はしない。


さて、ついでだからどのようにして「ふたえまぶたの手術」が完成するかということを説明しておこう。
まず、患者さんのまぶたの立位での観察から始まる。正面から、さらに横側から、まぶたの皮膚の厚さや挙がり具合、垂れ込み度を観察する。次に患者さんの希望をつぶさにり聞いてみる。できない事は「それは・・・という理由でできません。」とはっきり言う事も大切だ。
この後0.2mm単位で手術のデザインをする。ポイントは
1)切開の位置
2)皮膚の切除量
3)皮下組織の切除量
4)挙筋腱膜に対する処置の有無
5)眼窩内脂肪の処置の有無
である。
顕微鏡下での手術メスの入れ方の注意点は力を入れないことだ。すーっとメスを走らせる。力が入りすぎるとりと皮膚が凹み、思った所にメスが入らない。デザインしたところからズレてしまうのだ。瞼板前組織の切除量は注意が必要だ。取り過ぎたり、瘢痕で硬くなると眼瞼下垂様症状がでてしまう。挙筋腱膜を処理するなら、この薄い膜の確認が大切である。以外に膜が見つけにくいことも多い。縫合は比較的簡単かもしれない。しかしながら、この縫合法が丁寧でなければ手術痕が天然の「しわ」の様にはならないのだ。
私は傷の縫合には必ず顕微鏡を使っている。べつに裸眼でも十分見えるのだが、顕微鏡を使うと別世界が開けると思うのだ。顕微鏡を使うと、傷の創縁がピッタリ合うのが確認できる。

縫合中
縫合後
縫合中縫合後

こうして「ふたえまぶたの手術」を行なえば行なうほどその手技の深さに驚かされる。一見簡単なようだが、簡単そうだからかえって難しいと気付く。経験しても、経験してもそのつど新しい発見がある。
だから、美容外科専門医は「ふたえまぶたの手術」に始まり「ふたえまぶたの手術」に終わるのだ。

こうして徹底的に「美容外科手術」を追求していけば、あえて宣伝なんかしなくても口コミで伝わる評判の良い美容外科医になれるのだろうか?

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